一生自分の歯で過ごそう

これからの歯科のかかり方

一生自分の歯で過ごそう!・・・1

全国ビリから、世界のトップレベルに

山形県の坂田で全国でもビリだった子どもたちが、10年を経て日本のトップレベルになりました。これは子どもたちのむし歯の話です。

山形県はつい最近まで子どものむし歯が一番多い県だったのです。1990年の三歳児のむし歯経験者の比率は78.5%で、47都道府県で最下位。無理からぬところもあります。三世代同居家族が多く、おじいちゃん、おばあちゃんは、どうしてもめんこい孫に甘くなってしまうのです。大家族は核家族より、幼児のむし歯が多くなりがちです。

ところが、そのむし歯の多い山形県のなかで、去年、日本海に面した人口12万人の地方都市である酒田市が全国でもトップレベルの歯の健康状態を達成したのです。むし歯の成績は、永久歯が生え揃う12歳の子どものDMFTという歯数で表されます。DMFT指数というのは、むし歯で穴のあいた歯(D)、抜いた歯(M)、治療でつめた歯(F)の一人当たり平均の合計本数です。日本の12歳児の子どものDMFTは、ほぼ2.9%。それが去年、山形県は全国平均を下回り2.7%、酒田市は1.4%。周辺の四町のうち三町は酒田市よりもさらに成績が良かったのです。学校単位では、酒田市内の小学校四校がなんと0.5%を下回りました。

ほぼ10年前、全国でも最下位だった3歳の子どもたちが12歳になって、北欧なみの歯の健康を手に入れました。どこかの家からヒーローが出たのではなく、地域の子ども達全員がヒーローですから、地域をあげて自慢できます。北欧では、12歳児DMFT1.0%はいまや当たり前ですが、そこにグンと近づきました。
もちろん、これにはわけがあります。

ひとりの歯科医が、行動を起こしたのは1996年のことでした。小学校の学校歯科医になると同時に山形県の不名誉な実状をなんとか改善しようと活動を始めたのです。かつて小学校や中学校の歯科健診では、むし歯を見つけることに全精力を傾けていました。歯科医は年に二度学校に出向いて、細い針で子どもの歯を探り、詳細にむし歯の程度を調べ、記録しました。そしてその記録をもとに、養護の先生は児童に治療をうながしてきました。児童の親御さんたちは、学校からの「治療のお勧め」に従って子どもを歯医者に行かせました。歯医者さんは、子どものむし歯を削って、そこに金属を詰めて治療をしました。だれもが子どもの健康のためだと考えて、そうしてきたのです。

しかし、できはじめのむし歯を針でつついて見つけ、そこを削って詰めるのでは、むし歯はなくなりません。かえってむし歯をひどくしてしまう可能性さえあります。たとえ一時的にむし歯が治っても、再発すれば削った分だけ歯の破壊は進みます。
むし歯を探すこと以上に、まず教育のなかでむし歯を防ぐことに精力を傾ける必要があるのです。

甘いものを控えたり、毎食後歯みがきをしたり、フッ素で洗口することは、歯の健康のためにどれも大切なことですが、もっと確実で効果的なことは、子ども自身が自分のからだに関心を持って、自分のからだを自分で管理することの大切さを理解することです。歯ブラシもフッ素も、そのための道具として上手に使ってはじめて活かすことができるのです。こうして、酒田地区の小学校では、養護の先生を軸に、学校歯科医、先生そして家族がいっしょになった歯の健康づくりがはじまり、たった15年で世界のトップレベルに躍り出たのです。

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病気を見つける健診から、病気をなくす教育へ

病気になったらお医者さんに行く、病気は医者に治してもらう、と私たちは勘違いしがちです。
でも、これは大間違い。病気を治すのも、健康をつくるのも、私たち自身です。医者は、それを助けることができるに過ぎません。歯医者でも同じです。

むし歯を見つけるのではなく、むし歯をなくす教育は、ただ子どもたちのむし歯を激減させただけではなく、健康に対する考えや医療機関の関わり方をまるごと変える活動になります。
 むし歯をなくす教育は、まず学校の先生を集めて歯の健康を守るための話を聞いていただくことから始まりました。子どもたちの前にまず先生の教育だったのです。もともと小学校の新人の先生は、ガヤガヤ騒がしい教室で子どもたちに聴こえる大きな声で話さなければなりません。だからどうしても、のどをいためやすいのですが、そのためにノド飴をなめる先生が少なくありません。まず先生たちが勉強して「健康のことは養護の先生におまかせ」という空気が変わりました。

子どもたちの歯科健診も、口を開けて歯医者さんに調べてもらうだけの健診ではありません。照明のよくない体育館で正確な検査をやろうとすることには、従来から疑問の声がありました。
とくに小学生では、どの子の口のなかにも、生えたばかりの永久歯があります。生えたばかりの永久歯は、とても酸に弱く、まだ軟らかいのです。とくに奥歯は、歯の山がとんがって谷が深く、その深い谷がとてもむし歯になりやすいのですが、そのなりかけのむし歯を、細い針でつついて壊してしまったら、もう自然には治りません。歯の表面が壊れたら、歯の内部にたくさんの細菌が入り込んでしまいます。
寄生虫対象なら、学校で検査して、寄生虫を見つけることが対策になります。
でも、むし歯は、穴があいてしまったら治りません。だから正確な検診より、むし歯をつくらない教育が大切なのです。

ある小学校では、自分の口のなかの写真を貼ったカードを子どもたちひとり一人につくりました。学校歯科医とそのスタッフが手分けして子どもたちの口のなかの写真を撮影し、ひとり一人の歯の状態を克明に書いたカードにその写真を貼って子どもに渡しました。それを持ち帰った子どもを囲んで、家族で子どものからだについて話し合いをしてもらいました。子どもたちは、家族みんなに注目されて、自分のからだに関心をもつとても印象深い経験をしました。その感想を作文にします。もうこれ以上の勉強はありません。
これまで学校の健診で見つかったむし歯を削って詰めていた地域の歯科医たちも、子どもたちの健康を管理する診療へと次々に方向転換しはじめました。病気を見つける健診から、自分で自分のからだを管理し健康を育てる教育へ、先生も父母も地域の歯科医も、みんなの意識が次第に変化しはじめたのです。酒田の小学校では、学校と地域が一体となった健康づくりがいまでは当たり前。そこには小学校の養護の先生の学校を越えた横の連携、先生や父母の理解、地域の歯科医たちの協力がありました。

だから、ハートフル歯科では、むし歯予防は、教育とセットで行っております。
エデュケア=エデュケーション(教育)+ケア(予防) 私たちは、お子さまのむし歯予防には、家族の協力が不可欠だと感じています。そこで、親子のだ液検査で生活習慣、虫歯菌の質や量など確認して家族間でのむし歯菌の感染のコントロールまで考えていっています。
三鷹・武蔵野の地域の方は、みなさん むし歯のない歯育てに興味を持っていらっしゃると感じています。
一緒にお子様のお口の健康サポートを考えてみませんか。

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むし歯は削って詰めても治らない

赤ちゃんの歯がいつ生え始めるか、ご存知ですか?歯が生えたら母乳(ミルク)が終わり、乳児は幼児となっていくのです。白い前歯が生え始めるのはおおよそ生後8ヶ月から9か月ごろからです。真珠のようにかわいらしいこの時期の歯が、むし歯になってしまったらどうしましょう。この場面こそが健康な歯の分かれ道になります。「むし歯ができたら歯医者に行って直せばいい」と考えるか、「むし歯を作らないように気を付けよう。」と考えているか。この意識の違いが、お子さんの将来の歯の健康状態を大きく分けます。では、こどもの口の中にむし歯を作らないために何をしましょう。糖分が含まれるお菓子を食べさせない?食後に必ず歯みがきをさせる?

日本のむし歯予防は、今まで糖分が多い食べ物は食べない、食事後はすぐに歯磨きをする。むし歯になったら早く見つけて早く治すを三本柱にしてきました。ちなみに日本の砂糖消費量は世界一143か国のなかで85位と欧米諸国と比較しても決して多くないです。では、日本人は他の国に比べて歯を磨かないのでしょうか?厚生省の調べによると、毎日かかさず歯を磨く人は国民の96.2%。国民がこれほどしっかりと歯を磨いている国もめずらしいのです。全国でビリだった山形県の3歳児は、糖分を取らずに世界一になったわけではありません。きつい思いをしないで世界一になった秘訣はいったいなんでしょう?
むし歯になる原因から考えてみましょう。

むし歯を作る元となるミュータンス菌は、まだ歯が生えていない口の中にはいません。ツルツルした面にのみくっつくという特性をもっているので、歯が生えていない口の中には住家を作れないのです。この細菌は、より身近な方から赤ちゃんへ感染します。このため、むし歯を作らないようにするには、「お母さんとのスキンシップを避けた方が良い」という意見もありますが、実はこれは大きな間違いです。赤ちゃんの口の中を守ってくれる善玉菌(サングイス菌)も、お母さんなど身近な人から移ります。善玉菌は歯の表面に付着すると、虫歯が出来にくくなります。

問題なのは、お母さんの口の中にどれくらいの量のむし歯菌が存在しているかです。
人によってはむし歯菌はほとんどいなく、善玉菌がたくさんいるケースもあります。砂糖を長時間口にしているとミュータンス菌は増加します。妊婦の方はどうしても不規則な食生活になり偏食になりがちです。偏食が長続きしてしまっている人は注意が必要です。

むし歯は、治療の時にいくらきっちりと詰めものをしても治るわけではありません。プラスチックを詰めた歯は平均で5年と2か月、銀歯の場合は5年4か月、被せ物の場合は平均7年1ヶ月。これが現在の治療の寿命です。むし歯になる原因を絶たなければ削った個所にまたむし歯が発生してしまいます。しかも同じところにむし歯が出来てしまった場合、前回よりさらにひどくなるのです。これを繰り返して、最終的に歯を失ってしまう人が非常に多いのです。

スウェーデンを例にとると19歳の一人あたりのむし歯のある面数と詰め物をしている面数、抜歯をした歯の合計は3.6%、むし歯1本もなかった人の割合は全体の22.3%。これと比較して日本は、むし歯や治療済みの歯を歯面数ではなく本数で数えても9.2%、むし歯のない人はなんと全体の4%です。もちろん日本に歯科医師が不足していて治療が十分に行えていないわけではありません。むしろ、まったく逆です。悪くなったら治療する。これを繰り返していると歯は悪くなっていく一方です。厚生省の調査では、30~34歳で一人あたりのむし歯のある本数と詰め物をしている本数、抜歯をした歯の合計が13.7%、40~44歳で15.6%。年を重れば重ねるほど歯が減っていき、50歳になると正常な歯は、4割程度しか残らないというのが実状です。

お年寄りは体が不自由になってくると食べ物を口から食べられなくなることがありますが、そうなると体全体がみるみる衰弱します。鼻からの流動食が中心の食生活になると口を使わなくなるので笑う力も話す意欲もなくなってきます。いま老人介護でも、食事と時に「口を使って食べる」ことの重要性が注目されています。きちんと口で食事することが元気を取り戻す近道だといわれています。年をとっても自分の歯を残して健康的な食生活を送るために、あなたも「むし歯になったら治す」から「むし歯を作らない」という意識に変えませんか?

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むし歯は、治るうちに治そう

むし歯にしないように甘いおやつも控えめ、歯磨きもちゃんとさせていたのに、子どもが学校から歯医者さんの受診の勧めをもらって帰ってきました。「CO」の記号にマル印がついています。お母さんは大ショック。甘いものも控えめだったのに、どうしてむし歯になったのかしら?「CO」ってなにかしら?

学校歯科健診では、以前は、進行の度合いに応じてむし歯をC1~C4の四段階に分けることになっていました。でも、ひどくなったむし歯は治らないないわけですから、毎年健診をしても子どもたちの健康状態は一つも改善しません。治療のための検査をしていたのでは、むし歯を減るどころか増える一方です。平成七年度に、このきまりが改正され、むし歯を学校で詳しく診査することはなくなりました。代わりに要観察歯(CO:シーオー)という考え方が使われるようになりました。むし歯のなりはじめの危険な状態がCOです。COは削って詰めなくても治るむし歯です。学校歯科健診でも、ついに治療から予防管理へと、考え方が大きく変わったのです。

健康を育てる教育を始めていた歯科医は、この方針転換をずっと首を長くしてまっていました。削らずに、子どものむし歯を治したかったからです。昔の歯科医は、むし歯は治らないものと考えていました。だから小さなむし歯を早く見つけて小さなうちに削って詰めてしまったのです。むし歯になりそうな部分まで、余分に削って金属に代えてしまう治療も珍しくありませんでした。それが正しい治療だと思われていたのです。

COは、治る瀬戸際にあるむし歯です。COは、削りません。COの治療はむし歯の原因除去療法ですから、むし歯治療の基本です。
歯はだ液の海のなかで、ちょうど呼吸するようにミネラルをすったり出したりしています。ここに強い酸を大量につくる細菌、そして細菌が酸をつくるための栄養が加わると状況が変わります。細菌が歯の表面につくるプラークのなかでは酸がつくられ、歯のミネラルが一方的に溶け出してしまうのです。ちょうど雨が少なく日照りが強いために土地から水が奪われ、砂漠になってしまうのと同じで、プラークの下でミネラルが奪われつづけるとCOの状態になります。歯の一部が白く濁った状態です。深い溝が褐色になることもあります。

日照りが厳しくても砂漠になるとは限りません。樹木が日陰をつくり、植物が水を蓄えていれば砂漠にはなりません。でも家畜が草を食べ尽くし、木々を薪にしてしまうと一気に砂漠化が進むのです。むし歯を防ぐ一番大きな力をもっているのはだ液です。だ液のパワーが及ばないと、天井おやつを控えて、歯みがきをしていてもむし歯になってしまうのです。だ液には、食物を洗い流す働きの他、細菌の増加を抑える力があり、しかもむし歯の細菌が出す酸を中和してくれます。さらにたっぷりとミネラルを含んでいるので、歯がうしなったミネラルを再び取り戻してくれます。このため、だ液の応援があればむし歯を防ぐことができます。

だ液の応援が及ばないところには、フッ素イオンの助けを借ります。歯の耐酸性がとくに低い場合、たとえば子どもの乳酸や生えたばかりの永久歯、削って詰めた歯、かぶせた歯、高齢になって歯茎が下がった歯は酸に弱いので、フッ素の助けが必要です。このほか細菌を減らし酸をつくらせないためには、食べ物と食べ方対策が有効です。口のなかをきれいに清掃することも、もちろん大事です。

高齢者であれば、いつも服用しているお薬にだ液を少なくする福作用があるかもしれません。だ液が出なければ、歯ぐきの下がったところは簡単にむし歯になります。この場合は、お薬を変えることも考えましょう。余分なお薬を減らすチャンスにもなるでしょう。
その人のその場所の問題に応じた対策が、むし歯を治すほんとうの治療です。

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むし歯は遅く、歯周病は早く

小さい頃からむし歯になると初期段階できちんと歯科医院に通われていた40歳の女性の例です。お口のなかを診たところ、40歳とは思えない黒ずんだ銀歯がずらりと並んでいます。治療していない歯はほんの数本という状態。抜けてしまった歯は2本。40歳という年齢の割に歯周病の進行もかなり進んでいました。実はこういった女性は非常に多いのです。歯医者で治療することに対して後ろ向きで通っていなかったのであれば仕方がないですが、むしろ積極的に歯医者さんに通っていたのです。厚生省の調査でも、40代の女の人で歯に被せ物や詰め物をしている本数は、平均で約12本にものぼります。

調査した結果、初診の患者さんの歯周病の進行度合いをチェックすると30代で中度から重度の歯周病の患者さんは全体の25%、40代の患者さんでは40%、50代では56%にものぼります。このようなことから「むし歯を見つけたら削って詰める。歯周病は悪化するまで放置する」という歯科医療の実態が見えてきます。治療時にかぶせ物をしたことが原因となり歯周病を悪化させているケースもあります。歯周病は、歯ぐきの間に住みつく細菌を定期的にきれいに除去すればほとんどのケースで進行を抑えられます。健康を維持するためには、歯周病も虫歯も原因を除去するための対策が重要です。そして現状とは逆の「むし歯の治療は控えめにして、定期的に検診を行い歯周病は早期発見」に変えましょう。歯周病は歯ぐきから膿が出てきたり痛みを感じる時は重度になっていることが多いです。そうなってしまう前に自覚症状を感じていなくても治療を開始するべきです。

むし歯の方は、すぐに削って詰め物をするのではなく、削ることを後回しにして、口内環境を改善してむし歯が出来にくい環境にすることが、将来的には有効です。
歯を守るだ液の効果については前回触れました。むし歯菌が作り出す酸と戦うのがだ液の効果ですが、むし歯菌が酸を作り出す働きにも注意しましょう。むし歯の原因菌は口の中に砂糖が入ることによってネバネバや酸をつくります。この二つが活動することによってむし歯がつくられますが、むし歯菌は砂糖や炭水化物がない限り酸を作れません。

糖分を多く含んだ飲食物を長く口にすることが一番良くありません。寝る前に食べ物を口に入れるのも良くありません。水分補給のために効果的なスポーツドリンクも実は糖分が多いため注意が必要です。乳幼児に哺乳ビンを使ってスポーツドリンクをあげている母さんを見かけることがありますが、これは「積極的にむし歯をつくっている」ようなもの。口内の歯を全てむし歯にしてしまうことだってあります。

小さなお子さまもお年寄りだって、甘いものが大好きです。運動をした後は甘い飲み物も欠かせません。たしかに砂糖は、疲れを取ったり精神的なストレスを軽減する働きもあります。大切なエネルギーの源にもなります。ですから甘いものを食べる時はだらだらと長時間口にしないで間食を減らすなど工夫をしましょう。

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歯みがきは、何のため?

お口の健康のためには、歯ブラシでブラッシングすることが大切です。日本には古くから房楊枝という歯ブラシがありました。では、歯みがきの目的は、食べカスを取り除くことにあります。プラークは細菌のかたまりです。歯を磨くといっても適当にゴシゴシとやって磨いたつもりになっている人が少なくありません。困ったことに、こういう人はいつも同じようにはブラシが触れたこともないというあり様です。四角いお部屋を毎日まるく掃いているようなものですね。お掃除上手は、ほこりのたまりやすいお部屋の隅を掃除します。食べたあと、お茶碗やお皿をひとつずつ洗うように、一本一本の歯をひとつひとつていねいに磨くのが歯みがきです。

歯ぐきの健康維持には、歯と歯ぐきの境目や歯と歯の間にプラークをためないブラッシングがとても効果的です。とくに歯と歯ぐきの境目は、力を入れるとかえってブラシの毛先が当たりません。

歯ブラシは、力をいれずに毛先を歯面に直角に当てて使います。歯は凹凸の多い複雑な曲面をしていますので、そのかたちを意識して歯ブラシを使う必要があります。我流では、どうしてもいつも同じところを磨き残しているものです。是非とも、歯科衛生士さんに効果的で楽な歯みがきを教えてもらいましょう。ふつうの歯ブラシの他にも、歯間ブラシやフロスなど、その人の口のなかの状態などに応じた道具の使い方を教えてくれます。いろいろな道具を使って器用にみがくことができる人はわずかですが、最近は、音波ブラシなどプラークを除去するのに適した器具も出てきました。

口のなかの細菌はちょうど風呂場や流しのパイプの内側にこびりついている細菌のように頑強な構造体(バイオフィルム)をつくっています。お口のお掃除で、ていねいな歯みがきと同時にもうひとつ大事なことは、このバイオフィルムの除去です。音波ブラシは、音波が頑固なバイオフィルムを破壊するしくみを利用したものです。歯周病のコントロールのために歯医者さんで定期的なクリーニングをすすめる理由も、このこびりついたバイオフィルムを定期的に破壊することが目的なのです。ふだんのお掃除も大事ですが、それとは別に専門家のお掃除が必要なのです。ちょうど定期的に下水管の咬圧洗浄をするようなものですね。

では、しっかりと歯みがきしていれば、むし歯にならないかというと、残念ながら歯みがきではむし歯は防げません。口内がむし歯だらけの人をよく観察すると、むし歯だらけの人でも、決まってむし歯でないところがあります。それはだ液に守られている場所です。ですからだ液のうまく行き届かないところは、むし歯の危険地帯です。お薬の副作用でだ液の出にくい人は、ふつうの場所が危険地帯になり、安全地帯がなくなりますから要注意です。よく噛めばだ液がたくさん出ます。よく噛むことも大切なむし歯予防です。

むし歯予防の目的では、歯みがき剤が有効です。何もつけない歯ブラシでみがいた後、たっぷりとフッ素入りの歯ブラシで磨いてください。長時間口の中に歯みがきのアワが残っているほど効果的です。最後にできるだけ少量の水でゆすいでください。この程度、口のなかに残ったフッ素はまったく無害であることが確かめられています。完全にすすいでしまうと効果は半減します。とくに大人の歯が生えはじめた小学生や歯ぐきが下がって歯の根がむき出しになった高齢者の場合には、このようなフッ素の使い方が是非とも必要です。

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成人の慢性の病気と治療と予防

慢性疾患の治療方法で一番良いのは予防です。「予防は重要」という意味合いで言っているわけではありません。治療と予防の間にはむしろ境目というものがありません。糖尿病(二型)を例にしても、一番良い治療方法は充分な運動と正しい食生活なのです。お医者さんに任せていれば治るというものではありません。同時に、減量、運動、バランスの良い食事は糖尿病になりがちな方には一番有効な予防方法でもあるのです。運動には治療も予防もありません。

慢性疾患はいくつもの原因があります。コレラ菌に感染するだけでも発病しますが、胃潰瘍はピロリ菌の感染にプラスして精神的なストレスや毎日の食生活が影響すると言われています。このように病気になりやすい身体であるかどうかを左右する因子をリスク因子と言います。歯周病であっても、いくつかの原因となる細菌の名前があがっていますが、歯周病の発症と進み具合は、遺伝的な要因や生活環境がかかわっています。さすがに遺伝レベルのものは変えられませんが、それだけで病気になるわけでもありません。歯科クリニックで改善できるリスク因子もあります。医師からのアドバイスを受けて日々の生活で改善できるリスク因子もあります。リスク因子を発見するのが医師による診断であり、そのリスクを軽減するのが予防であり治療です。

毎日の歯磨きの仕方が歯周病の予防にも治療にも大きく影響することはたくさんの人が知っています。しかし、熱心に歯磨きをしても、年齢を重ねると入れ歯になってしまう人もいれば、あまり熱心に磨いていないのに丈夫な歯を持つお年寄りもいます。このように病気にかかりやすい、かかりにくいを決めているのが、リスク因子です。

現在の日本人は、糖尿病や、リウマチ、メタボリック症候群や痛風など色々な慢性疾患に悩まされていますが、それぞれのリスク因子には同じものもあれば、それぞれ別のリスク因子になっているものもあります。歯周病は、口の中の細菌だけではなく歯の形や咬み合わせ、歯ぎしり癖、呼吸の仕方などが大きく関わってきますが、もっとも大きなリスク因子は、じつは喫煙です。これはサイトカインという炎症を引き起こす細胞が出す物質の特性が歯周病に大きなかかわりがあることが見つかり、専門家の間で話題になりました。これで歯周病の診断が飛躍的に進むと予想されたのですが、たばこを吸っている人では思い通りの結果がでません。遺伝因子以上にたばこを吸う事の方がずっと大きなリスク因子だったのです。

生活習慣病である糖尿病は歯周病のリスク因子でもあります。糖尿病の人は歯周病が悪くなりやすいうえに、回復も遅いことが分かっています。そのほか抗てんかん薬、狭心症の予防薬、免疫抑制剤などの薬剤による副作用もリスク因子になります。

慢性疾患の治療では、このように患者さんと医師や専門家がともに協力し合ってリスクをコントロールします。たしかに慢性疾患で生じた生涯の機能の回復も大事です。しかしながらそれだけでは病気は治りません。以前は、むし歯になったら歯を削る、年を取って歯を失えば入れ歯を入れるのが歯の治療だと考えられていました。糖尿病も昔は、失明したり、足に障害が残り歩けなくなったり、腎臓が機能しなくなったりするのが普通でした。しかし、いまでは、そうなってしまう前に治療します。

慢性疾患の予防や治療についての新しい事実が色々とわかってきたのは、ここ20年ぐらいのことです。ですから今までの治療についてはある程度仕方のないことです。しかしながら、成人の病気は、誰もが避けて通れるものではなく、機能障害を治すのが治療という時代は終わりました。成人の慢性疾患は、予防することができるのです。

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これまでの歯科のかかり方/これからの歯科のかかり方

映画好きな人は海外の映画で、「歯医者の予約」を口実にデートの誘いを断るシーンを見たことがありませんか?海外映画などを注意して見ていると、打ち合わせシーンなどで「歯医者の予約」が話の中に出てくることがよくあります。日本の映画やドラマで、そんなセリフがあったら「どこが悪いの?」って聞き返されるかもしれません。海外の映画の話に出てくる「歯医者の予約」は治療ではないのです。

歯や歯ぐきの病気のほとんどは、細菌による感染です。この細菌はしっかりと歯にこびりついているので軽く触った程度では落ちない頑強な構造体(バイオフィルム)をつくっています。そのため歯や歯ぐきの細菌に薬はほぼ効果がありません。さらにこの状態を放置し続けると、細菌からの攻撃を受け続け、からだの防御反応でかえって歯を支える組織が壊されてしまいます。そこで歯周病の治療では、日々の歯みがきを丁寧にする事とともに、この歯みがきでは落とせない細菌のかたまりを特別の方法で除去していくのが重要になってきます。

歯ぐきの隙間に入ってとどかない部分を専門家に定期的にきれいにお掃除してもらうことが、もっとも効果的な治療法です。慢性疾患の場合、予防と治療の間には明確な境目はありません。最も良い治療方法が予防なのです。治療メインの歯科医療から予防にシフトすることは世界的には常識なのです。

子どもの医療は予防がメインの医療になるのに対して、大人の治療は患者が高額な費用を負担することになります。アメリカの歯科医師会の調べ(1994年)によると、米国人の約79%が健診やクリーニングのために年1回は歯科を受診しています。同じ年に治療をするために歯科に受診した人は全体の12%に過ぎません。アメリカでは、日本のように健康保険制度がなく、民間の保険会社が提供している保険は、歯の詰めものや入れ歯の治療には部分的にしか援助してくれません。いったん治療になると高額の治療費がかかるのです。そういった背景もあり、多くの人は自分の身と財布を守るために予防を目的に歯医者さんに通院します。

幸か不幸か、日本では歯を削って詰め物をしたり、入れ歯を入れるのに健康保険が適用され、費用的な負担が大きくありません。皮肉なことに、この制度こそがかえって予防に対する意識を低下させているのです。現在の健康保険制度では、むし歯や歯周病が進行して症状が大きくなってからでないと治療できません。このため予防の観点から行う治療は、保険ではとても取扱いにくいのです。これが日本の歯医者で積極的に予防治療をする医師が増えない理由につながっているのです。

厚労省の調べでは、50歳を過ぎた国民は10年間に平均で5~6本の歯を失っています。これに対して定期検診を受けている人は10年間で平均、0.7本しか歯を失っていません。もともとは歯の状態が悪くて歯科医院に通った患者のデータであることを考慮すれば、この差は非常に大きな意味をもちます。むし歯になってから痛い思いをする治療のためにお金をかけて頻繁に通うか、気持ちよく年に1~2度通うか?数ヶ月に一度、美容室や床屋に通うような気持ちで歯科にかかるのが健康管理のために良い来院の仕方と言えます。

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歯周病を起こすリスク、歯周病が起こすリスク

昔から成人病として扱われている脳卒中や動脈硬化、糖尿病なども含めて現在は生活習慣病と呼ばれています。病気になる原因が全部生活習慣にあるわけではありませんが、どのような病気も、病気の治療や予防には生活の改善が必要になります。生活改善が必要なのは歯周病も同じです。歯周病予防と治療の第一歩はプラークコントロールです。口内のプラークを健康な状態に維持することは、からだ全体の健康にもつながります。体力が衰えるとせきをする力が弱くなってきます。そうすると十分に細菌を追い出すことが出来ず、だ液が細菌だらけになります。細菌だらけのだ液が気管に入ることが原因で肺炎になることがあります。肺炎になると微熱が続くだけでなく最悪のケースは死を招くことだってあります。口内の細菌であったり炎症を起こしている歯ぐきは、動脈硬化や心臓病を引き起こす原因になると言われています。

慢性疾患は生活習慣だけでなくいくつかの要因が重なって発症します。歯周病が悪化するケースでも、細菌がつくるバイオフィルムとは別に、歯ぎしりや喫煙、遺伝子的な因子だけでなく、糖尿病に投与される薬なども関係してきます。これらはリスク因子と呼ばれています。年齢を重ねると歯周病になり、歯が抜けやすくなると考える人も多いですが、プラークコントロールが適切に行われている場合は年をとっても歯周病は進行しません。複数のリスク因子があるようなケースは、歯周病リスクは蓄積され、重度歯周病に進行する恐れがあります。

歯周病の原因として、一番影響があるのはタバコです。タバコが成人の色々な慢性疾患の原因となることは、一般常識として認識されていますが、タバコを吸う人と吸わない人と比較すると歯周病の進行具合や治りの早さがまるで違います。40代の重度歯周病患者でたばこを吸っていない方が24%に対し、たばこを吸っている方は56%という調査結果も出ています。喫煙者は同じ年齢でたばこを吸っていない人に比べ、3.9倍も歯周病になりやすいのです。たばこは歯周病が悪化するスピードを速めます。アメリカでは、ほとんどの歯科医院で喫煙指導をしています。

心臓、肺、血管、皮膚。喫煙はいろんな病気を引き起こす大きなリスク因子であることはもう常識です。イギリスの調査では、70歳時の生存率は、非喫煙者80%、喫煙者59%です。タバコの煙は、タバコを吸っていない人も危険にさらします。ご家族の方が1日20本以上たばこを吸う方であれば、その副流煙を吸っている家族は肺ガンで死亡する確率が1.9倍になっているという研究があります。
 米国では、成人の喫煙者はすでに少数派です。いまではむしろ、10代の若者の問題です。わが国でも成人男性の喫煙者は減っていますが、若い女性や10代の若者たちの喫煙が増えています。タバコは一度習慣化されてしまうと、簡単にやめることが出来なくなります。喫煙習慣は先のことを考えずに軽い気持ちで始めることがほとんどです。そんな軽い気持ちから、将来の重荷をつくってしまう事がないよう大人が教える必要があります。

若い女性で喫煙している方の多くは、太りたくないという思いから始めているようです。しかしながら、たばこがどれくらい肌を老化させるか、歯ぐきを変色させ、笑顔を台無しにするか、衰えてから気がつくのでは遅すぎるのです。

年を重ねると色々な病気と付き合っていく必要が出てきます。糖尿病や血液疾患、免疫疾患は歯周病とも関連のある疾患です。糖尿病が歯周病を悪化させることも、逆に歯周病が糖尿病を悪化させることもあります。骨の中にあるミネラルが少なくなることが原因で発症する骨粗鬆症も歯周病のリスク因子となります。このほか抗高血圧薬や精神薬、ホルモン製剤などの薬剤からくる副作用も軽視できません。年を重ねると、どうしても慢性症状を抑制するための薬を常用するケースも増えてきます。そういった薬の副作用が歯周病のリスクになっているのです。